タシケントでの半日を慌ただしく過ごし、この日はマルギランへ電車で移動です。
マルギランはウズベキスタン東部のフェルガナ盆地にある町で、古くから紡績が盛んです。
この地の布地は色鮮やかで特徴のあるデザイン。絣の技術で作られ、シルクのみの布地はアトラス、シルクと綿の混合の布地はアドラスと呼ばれており、民族衣装などに用いられてきました。
今日でも、伝統的な布地で仕立てた服をまとった女性や、インテリやなどに使われているのをよく目にします。
タシケントで早朝の列車に乗り込み、約5時間の旅。
真っ白な綿花が広がる大地を走り抜け、
時々現れてはすぐに終わってしまう集落をいくつか通り過ぎます。
マルギランの駅前は、到着した人々を迎えに来た車や、タクシーが十数人いる程度。国は違えど、どことなく“実家の最寄り駅”のような趣さえあります。
マルギランは人口20万人ほど。ウズベキスタンの中でも主要な都市ではありますが、人口50万人を超えるサマルカンドや、同じく人口300万人に届く勢いのタシケントからやってくると、どことなくのんびりした雰囲気を感じます。
ホテルに荷物を置き、早速バザールへ。
古い家屋が並ぶ旧市街のような場所をくねくねと歩きます。くねくね、とは言え、道幅はかなり広く、完全に車仕様。今まで訪れた国でたくさん古い地域を歩いてきましたが、(シリアでは旧市街に住んでいました)一般的にはこのような地域は道幅が狭く、路地と言う方がしっくりくるような道が張り巡らされていることが多い気がします。しかし、ここマルギランの、少なくとも私が歩いた場所は、今まで私が持っていた「旧市街」の印象とは少し異なるものでした。
どのような町の発展をしてきたのだろう。
そして、ウズベキスタンは道にゴミがあまり落ちていない。
幹線道路のような大通りに出れば、人やお店も増えますが、住宅が多い路地だと小さなお店がぽつぽつあり、その店先ではたいていノンを売っています。
ノンはウズベキスタンの日常に欠かせないもの。この地で数日を過ごし、ノンのある風景には慣れてきたつもりだったのですが、やっぱりノンのかわいさや愛しさを素通りできない。全然慣れていなかった。
路上の果物屋さん。段ボールの穴が顔に見えてくる。
靴屋のおじさんは、写真を撮ってくれと手を振ってくれました。
大勢の観光客で賑わうサマルカンドや大都会タシケントとは違い、マルギランはどことなく隙間があるような、さびれた感じとのんびりした感じが織り交ざったような町です。典型的な地方都市と言ってしまえばそれまでだけど。
路地を抜け、大通りに出ると人や車が急に増えてきました。人の密集具合が最高潮に達している場所が見えるな、と思ったら、目指していたバザールの入り口でした。
バザールの入り口付近には食料品を売るブースが並びます。
鳩が米をつついていました。
ぐんぐん奥に進むと、布地のブースが増えてきます。
これらがウズベキスタンの伝統模様の布アトラスもしくはアドラスです。
質や値段は様々なので、何軒もお店を周って。行ったり来たりしているうちに、好みの柄や、しっくりくる手触りの布がわかってくるのが楽しい。
少し分厚い、起毛したような布のあります。
クッションと言うには大きすぎるのだけど、中に綿を入れた細長い布団のような物を敷いてその上に座る、という習慣がウズベキスタンにはあるみたい。
縦長の布地は厚みがあり、袋状になっているもの。日本の家にも便利そう。
見るたびにこれもいい、あれもいい、となる一方で、やっぱりあれかな、と欲しい布の目星がついてきました。黄色い布など、数点購入。
白や黒、無地の服は殆ど着ない私にしては、割とおとなしめの色味の布を選びました。
バザールを何周もしていると日も傾き、お腹も減ってきました。
マルギランでも古くからあるチャイハナ(お茶屋)に立ち寄ります。
チャイハナは、お茶だけではなく食事も出すのが一般的で、もちろんお茶だけでもよい、かなり便利なお店。もっとも、ウズベキスタンは食事中にお茶を飲むので、やっぱりお茶が主役なのかな。
大通りに面した大きなお店で、店先に料理を並べているのでわかりやすい。
新鮮なサラダ類は毎回頼んでしまう。
ショーケースでは、茹でた肉を切り分けています。
左下のボールに入っているのは、おそらくノリン。
ノリンは、後にタシケントで食べることになるのだけど、ラザニアのような幅の広い小麦粉の生地を茹で、細く切ったものと、塩漬け馬肉(羊や牛のこともあるみたい)を茹でたものを、これまた細く切ったものを和えた料理。
タシケントでしか食べられないと、ネット上のいくつかの媒体で見かけたのですが、ここマルギランでは何度か見かけました。
左上の黄色いボトルは、よく見るとラベルに馬の絵があるような気がします。
もしかしたら、馬の脂なのかな。
馬のソーセージ「カズィ」。刻んで茹でひよこ豆と混ぜて具沢山スープのようにして食べるのだとか。
この組み合わせで売っている屋台もマルギランでいくつか見かけました。
料理をいろいろ見せてもらって、選んだのがこちら。
茹で骨付き肉入りスープ、ミートボールスープ、トマトサラダ、ヨーグルトサラダ。
ちなみに、トマト、キュウリ、玉ねぎの定番のサラダはウズベク語で「アチック・チュチュク」と言います。なんかかわいい。味付けは塩だけなので、脂っこい料理に合わせるには最適です。
トマトベースの優しいスープに骨付き肉がどんと。
出汁が出きったお肉感抜群でしたが、骨からほろっと外れるお肉に、スープがしみ込んでおいしい。
ミートボールのスープも同じもので、好みの具を入れてもらえるようです。
ちなみに、この料理名はウズベク語で「ショルバ」。アラビア語でスープはショルバなので、言葉の由来はつながりがありそうです。この料理名がショルバで、スープ一般を表す言葉は別の可能性もあるなと、念のためウズベク語の辞書で確かめましたが、ウズベク語でもスープはショルバでした。
ミートボールは、大き目のがごろんと。粗目の挽肉なので、団子がスープの中で簡単に崩れて、それでも肉の粒の存在感がすごい。やっぱり挽肉は粗挽きに限る。
客席は伝統的なお茶屋のスタイルだそう。
ベッドのような台にちゃぶ台と布団のような敷物。バザールで見かけたあれです。
旅で見かけたものがいろいろ繋がってくるこの頃になると、嬉しさの反面、もう旅も後半かぁ、と寂しさと焦りが入り混じったような気持ちになってくるのです。