夏の暑さが和らぐ頃、シリアやレバノンなど、シャーム地方の家庭では「マクドゥース」の仕込みが始まります。
マクドゥースとは、茹でたナスにパプリカペーストやクルミを挟み、オイルに漬けた保存食。日が経つにつれ酸味が増し、ちょっと通の味になります。
パンでつまんだり、サンドイッチにしたり。冬から春にかけて食べる季節の味覚です。
私が初めてマクドゥースを食べたのは、10年ほど前、シリアに行ってまだ間もない頃。確か中級ホテルの朝食でのことです。ぶにゅっとして油っこい。微妙な酸味がこの得体の知れなさを際立たせていました。
それから数ヶ月。シリア人の友人が、マクドゥースを作るから見に来る?と誘ってくれたのです。あー、あのマクドゥースね、なんて、正直あまりウキウキな気分ではなかったのですが…。
実はマクドゥースってあんまり得意じゃない、と、正直に彼女に打ち明けると、「え?安いホテルのマクドゥース?そんなのダメダメ」と、大きな瓶から、もう残り少なくなった前の年のマクドゥースを小皿に盛ってくれたのです。
それが、すこぶるおいしかったのです。私自身がシリア料理に慣れてきたというのもあるでしょう。しかしながら、まろやかな酸味とオリーブオイルのコク。柔らかいナスなのに、しっかり食べ応えはある。あのホテルのマクドゥースとは全く別物でした。
彼女曰く、既製品、特に値段の安いものは、オリーブオイルと他の植物油を混ぜたり、クルミが少なかったりでイマイチな事が多い。手間はかかるけど、家で作った方がおいしいのよね、とのこと。
家で作った方がおいしい、とは、シリア人の口癖でもありますが、このときほど実感したことはありません。
ちなみに、とある高級レストランでのマクドゥースも絶品でした。やはりケチってはいけない部分ってあるのだわ。
一般的にマクドゥースは、小型で丸っこい薄い紫色のナスで作ります。
シリアだと「ハムシー」や「ハマウィー」と呼ばれています。
この品種はエジプトでは見かけません。そのためか、普通のナスで作ったマクドゥースを売っているシリア人を結構見かけます。 ところが、知り合いのエジプト在住歴20年のシリア人によると、最近はエジプトでもマクドゥース用のナスを茹でた状態で売っている人がいるらしいのです。やっぱりマクドゥースはこっちのナス!という事なんですね。
マクドゥースの手順は、ナスを茹でてパプリカペーストとクルミを挟んでオリーブオイルに漬けるだけ。シリア人は5キロ、10キロのナスを使うのが普通ですが、ここでは食べきりやすい分量で作りますよ。
材料
ナス…500g(10 本)
クルミ…50g
赤パプリカ…200g
ニンニク…1 ~2かけ
塩
オリーブオイル
作り方
① 鍋に湯を沸かしナスを茹でる。落としぶたをして 20 分から 30 分、柔らかくなるまで茹でる。
② ナスをざるに取り冷ます。ヘタをむしり、ナイフで縦に切り込みを入れる。
③ 塩を指に付け、切り口に塗り込む。全てのナスをざるに入れ、塩をまぶし、重石をして 一晩水切りをする。
④ 詰め物を作る。クルミは包丁で粗めに刻む。パプリカはすり下ろすか、フードプロセッサーにかけ、ペース ト状にする。ニンニクも同様にペースト状にする。塩、クルミを混ぜ合わせる。
⑤ ナスの切り込みに④を詰め、清潔な瓶に入れる。
⑥ 瓶をざるの上でひっくり返し、そのまま一日以上置いて余分な水を切る。
⑦ ナスが完全に浸かるぐらいにオリーブオイルを注ぐ。2 週間ぐらいから食べ頃になる。
好みで唐辛子を詰め物に加えて、少し辛みを出してもよいです。
レバノン人の友人は、ザクロの実を加えていました。ほんのりジューシーで非常においしかったです。
パプリカペーストは、天日やオーブンで50~70パーセントほど乾燥させて作る方法もあります(こちらが正式かな?)
今回のように生の状態で作る場合は、水分が多くなることがあるので、すりおろしたパプリカをざるに入れ余分な水分を取り除くとよいです。
また、ナスを瓶に入れる際、軽く手で握って水分を絞る様にします。
保存は常温で。オリーブオイルに完全に浸かっていないとすぐにカビが生えます。
瓶詰めがネットでも買えるようです。
マクドゥースを食べた事がなく、正解がわからない!という方は、まずはこちらを試してみては。