2018年4月9日はエジプトでは春の訪れを祝う「シャンム・ナスィーム」でした。
アラビア語でシャンム=嗅ぐ、ナスィーム=そよ風と言う意味で、日本語では春香祭と呼ばれています。何だかとっても美しい翻訳。
これは、ファラオ時代から続くエジプト独特の習慣で、イスラム教やキリスト教など、現在の宗教とは無関係のお祭りです。
シェウム(Shemu)=収穫時期の創造の日、という古代エジプトの言葉が「シャンム・ナスィーム」の由来なのだそう。
その後、エジプトにキリスト教が入り、また、アラビア語が定着するなどの歴史の中で、現在の「シャンム・ナスィーム」に変化したとされています。
日付については、コプト教などの東方教会のイースターの次の日。
そのためこの週は金→土→日(イースター)→月(シャンム・ナスィーム)と、自動的に4連休となるのです(エジプトでは公的な休日は金曜日のみですが、金・土曜日が週末という雰囲気があります)。
この日は家族でピクニックに出かけたり、塩漬けの魚などを食べる習慣があります。
「シャンム・ナスィーム」の食べ物はいくつかありますが、代表的なのがこの「フィスィーフ」。ボラの塩漬けです。
これがっ!すっごく臭い!実はエジプト人でも苦手な人はかなり多いようで、フィスィーフの話になると、オエーとオーバーなリアクションを取ったり、あれは生ゴミの匂いだ、などと、結構盛り上がる?のです。
でもエジプト人が5人ぐらいいると、フィスィーフ好きもいたりして、「あ、私、結構好き」と、しかも恥ずかしそうに名乗り出たりするのは、エジプトあるあるなのではないでしょうか。
この時期にはこんな画像をよく見ます。
エジプトの映画「アサル・エスワド」の一場面です。
この映画は、幼少期にアメリカへ移住した主人公が、十数年ぶりにエジプトを訪れるという物語。
映画の中ではシャンム・ナスィームの一日も描かれています。フィスィーフをめちゃくちゃ警戒していますが…。
実は私も数年前にフィスィーフを買ったことがあるのです。
……ちょっと無理でした。ホントに生ゴミの匂い。
パックを開けたとたん、強烈な臭いで呼吸困難になるところでした。
もう2度と買わない!と誓ったのですが、いや、アレは何かの間違いだったのでは、もう一度チャレンジしてみてもいいかも、魔が差し1匹購入。
軽く息を止めてパックをオープン。クンクン、あれ?臭くない。いや、もちろん匂いはしますよ。でも、前回のような耐えられない臭いではない。
フィスィーフは水分が抜けて、ちょっと固めの物がよい、なんて聞いたことがあるのですが、今回のはまさにそんな感じ。そういえば、前回のは異常にぶよぶよしていたような。
実はこのフィスィーフ、発酵が不十分だったり、単に腐ってしまったりで、食中毒も多く発生しているそう。妊婦さんは食べないで~、なんてお知らせも、この時期のフェイスブックなどでよく見かけます。
今となっては確かめようがないですが、前のは腐っていたのかな。
食べ方はウロコを取り、軽く洗って、お腹を開き内臓を取り出します。ぐわっと広げて、背骨を取り、レモン汁を絞りパンでつまみます。
冷静になってフィスィーフを味見してみると、うま味の塊!塩っ気が強いので、量は食べられませんが、美味しいじゃない!
ああ、でもこれからはエジプト人とフスィーフの悪口で盛り上がれないのか、と思うと、なんとも言えない気持ち。これが喪失感というやつなのか。
ちなみに、パレスチナのガザではフスィーフを揚げてトマトソースで食べるんだとか。
レンガ(リンガ)はニシンの燻製。こちらはフスィーフに比べると食べやすいです。いや、むしろ美味しいです。
ガスコンロで表面を軽く炙って、皮をはいで食べます。今回は白子入り!
フィスィーフ同様、レモン汁を絞りパンでつまむ他、トマトやキュウリと混ぜてタヒーナで和えても美味しい。
ちなみに私はこのレンガで細巻きを作るのですが、エジプト人にとっては、レンガと米は絶対にあり得ない組み合わせ。必ずパンと一緒に食べるので、怪訝な顔をされます。
この他、鰯「サルデーン」や、カタクチイワシ「アンショーガ」、「メルーハ」などもあります。
これらの魚は年中売っているのですが、この時期になると特設売り場を設けていることもあります。
あ、フィスィーフはスーパーでは真空パックになっているので、エジプト土産にどうでしょう??
ヒヨコマメの未熟な実「マラーナ」もこの日の食べ物として知られています。
が、どこにでも売っているわけではなく、エジプト人も食べたことがない人が多いよう。
青い実をそのまま食べます。
レタスや青ネギ、テルミス(ルピナス)、色づけされた卵もシャンム・ナスィームの食べ物として知られています。
レタスは一般的にはロメインレタスなのですが、最近は日本でも一般的な丸いレタス(アラビア語でカプーチー)も普通に見かけます。
レタスの根元の部分からしみ出す、白い液体がミルクに見えることから、生命の象徴だと考えられていたのだそう。
いつかの年にエジプト人の友人と行った会員制公園。
シャンム・ナスィームのカウンターがありました。レンガセットにカラー卵。
フィスィーフ持参で来ている人も大勢いました。
友人は「なんか臭いな…」とぶつぶつ言っていました。
イヤな人はホントに不快っぽい。納豆みたいなもの?
ピクニックには行けませんでしたが、我が家でもシャンム・ナスィーム!
本来なら、ネギを長いまま添えるのですが、買えなかったので冷凍しておいた刻みネギでお許しください。
シャンム・ナスィームのシャンムはそよ風みたいなさわやかなものではなくて、フィスィーフの匂いだ!と言っていたエジプト人の友人がいましたが、確かに。
うちの台所、今微妙に臭いです。